第33回 レストラン リック
レストランには、つづけていくことの責任と使命がある。
大阪で誕生し、2008年六本木に移転した「レストラン リック」。エリアを問わず、お客さまに愛されつづけて、早くも15周年を迎えました。スクラップ&ビルドを繰りかえすレストラン業界の中では、ちょっとした老舗といえそうです。
山名正浩シェフは、レストランの使命のひとつとして「長くつづけること」を挙げています。
「レストランでデートを重ね、プロポーズもお気に入りのレストラン、子供ができて家族の記念日も同じレストランでいつもの料理をチョイスする。そうやって人生の思い出の場所としての、レストランの存在意義って大きいと思うんですね。それを突然パタッとレストランがなくなっていたとしたら、思い出の在りかが失われてしまうことになると思うんです。レストランには、そういう意味で続けていくことの責任や使命があると思うわけですわ」
と、大阪弁の抜けない言葉でレストランの存在意義を訴えたかと思うと……。
「いやぁー、でも私なんてまだケツが青くてね(笑)。お客さん、たぶんいろいろあると思うんやけど、それでもガマンしてまた来店してくれはる。ほんま、ありがたいことです」
オーガニック野菜や関西の食材を積極的に使うのが山名スタイルのイタリアン。最近では長野から山菜を取り寄せています。今届いたばかりの山菜を箱から取り出す山名シェフはなんだか、うれしそう。
「自然のものって、ほんま、ようカラダに馴染むでしょう? きょうはこれらを使ってどんな料理に仕上げようかなと考えるとワクワクするんです」
お客さま第一。当たり前だけど、それをちゃんとやりたい。
「魂(たましい)」は、山名シェフの大切なキーワード。レストラン経営者として、「魂」をもって仕事をしていきたいと考えているのです。
「お客さま第一。このことをスタッフと共に心がけています。お客さまからお声がかかったら、自分の仕事はあとまわし。お客さまのリクエストに『できません』とは言わない。お客さまを不安がらさない。当たり前のことなんですけどね、その当たり前をちゃんとできるレストランでありつづけたいと思っています」
それには、やはりチーム力が関わってきますね。山名シェフの想いを汲み取り、実行できるチームとしてのしなやかさが求められるということでしょうか。
「魂の波動みたいなものを、スタッフたちが感じ取ってくれています。スタッフにも、感謝しているんですょ」
人から見たら、自分のレストランがどう見えるか──。
それを知るために、同業者のシェフたちに正直な意見や感想を言ってもらうこともあります。前回ご登場いただいた土切祥正シェフもそんなひとり。同業者の友だちが多いのも、そんな謙虚なキャラクターだからなのでしょう。
「レストランのよさって、美味しいとかサービスがよかったとか、そういう言葉もあるけど、実は言葉で言い尽くせない部分も大事だと思うんですよね。『よく分からないけど、あのレストランってなんとなくいいよなぁ』とかね。それってやはり魂の部分だと思うんです。私もスタッフと力を合わせて、そう言われるようなレストランをめざしていきたいですね」
その日、その時季のメニューがぎっしりと手書きされた黒板。「本日のドルチェはイケメンスタッフにお尋ねください」と、笑いを誘います。
「テラノザウルスの卵です」と山名シェフがボケたら「なんでやねん!」とツッコむのがお約束。実はこれ、ダチョウの卵なのでした。
シックでエレガントな大人の空間は、シェフと対面するカウンター席のほかに、ゆったりと料理を楽しめるテーブル席もあります。
- レストラン リック (RESTAURANT RICK)
- 東京都港区六本木4-1-12 ディオーネビル 2F
- tel.03-3584-3933
- 営:ランチ11:30~14:00【水曜日のみ】
- ディナー18:00~3:00(L.O.2:00)
- 休:日曜日
- 交:六本木駅徒歩3分
持ち前の明るさと謙虚さをもつ山名シェフは、周囲のシェフたちからも親しまれているようで、コラボ企画などもスタートしているようですよ。さて次回のお店をご紹介いただきました。「ラーメンをメインにしたダイニングバーを経営する入江さんは、たぶん私と同じような考えの人です。料理もおすすめですょ」。ありがとうございます。それでは次回「ゲンエイワガン (GENEI.WAGAN)」さんでお会いしましょう。