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第59回 喜多川

第59回喜多川

2014.8.7
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オープンキッチンでお客さまと向き合って、仕事をしたいと思った。

オープンキッチンでお客さまと向き合って、仕事をしたいと思った。

シャキ♪ シャキ♪ シャキ♪

小気味よくハモの小骨に包丁が当たって、夏らしい音が響きます。

板長、そのハモはどんなひと皿に?

「本日は、ハモしゃぶでお出ししようと思ってね。この時期はコチやイサキなど、キリッと冷えた日本酒に合う魚が入ってきていいですね」

十代から懐石料理店に入り、追い回しから煮方までひとおりの仕事を14年かけて経験してきた下館智さん。

「私の時代はね、親方が絶対的な存在で、本当にきびしく育てられました。奥厨房だったこともあって、お客さまからはなにも見えないから、なおさらですよ。たぶん、修行中にされたことを、そのまま今の若い人にやったらすぐに逃げ出していくでしょうねぇ(笑)」

独立までの道のりはすべて懐石料理店。きびしくつらい時代がつづきましたが、和食の技術をしっかりと身につけることができました。このハモの骨切りもそのひとつ。

独立したのは29才。土地勘もあまりなかった中川駅のこの物件が気に入り、すぐに契約。

「とにかくカウンターキッチンにしようと思いました。奥厨房はもうこりごり(笑)。お客さまと向き合って、おしゃべりでもしながら、今日はこんな魚入りましたょ、こんな調理法でいかがです?なんて言いながら、和気あいあいと仕事を楽しみたいと思ったんですね」

テレビも流れる家庭的な居酒屋スタイルの空間でありながら、ひと品に込めらるのは懐石料理で培われた確かな技。しかもリーズナブルに。

「いやいや、技なんてどうでもよくて。お客さまが今夜はアレ食べたいと言われたとき、それを活かすためにたまたま技術があるだけだと思っています。先日もカレー食べたいなんていう常連さんがいらして、私ができる範囲で、一生懸命つくらせていただきました」

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無形文化遺産にもなった和食を志す人がもっと増えてほしい。

無形文化遺産にもなった和食を志す人がもっと増えてほしい。

2003年のオープン当初からランチをつづけています。ランチでおいしい御膳を食べて、敷居が決して高くないことが分かると、夜の食事に来店するお客さまも。

夜は、メニューを見て旬の料理をチョイスしながらお酒を愉しむお客さまもいれば、常連さんなどはおまかせで、出てくる料理に舌鼓を打つ。カウンターでは、そうやって気軽に立ち寄れて、それでいて旬の味わいを求めるお客さまで賑わいます。

「10年やってきて、つくづく思うのはお店はお客さまがつくるということ。住宅街ということもあるので、一人ひとりのお客さまと長くおつきあいさせていただきたいと思っています」

下館さんならではの、スペシャリテはなんでしょう?

「え?得意料理?うーん、どうだろうね。うちの料理は旬のものなので、どれが最高だなんて言えないですよ。私が季節の食材を生産者や漁師さんからいただいて、それをお客さまに提供しているだけですから」

自分の料理を表現する、という意識より、お客さまが食べたいものを自分の技を駆使して食べていただくという考え方がはっきりと表れていますね。

「ただね、和食を志す若い人が少なくなっているような気がしてね。少し残念が気がしています。イタリアンとかフレンチも、それはすばらしいジャンルだと思います。ただ、和食って、ユネスコの無形文化遺産に登録されたじゃないですか。それくらい、食材が豊富で健康的で、季節の移ろいを表現したすばらしい料理だと思うんですよね。それに、おもてなしの心ですよね。目配り、気配りとかね。私はまだまだできていないかもしれませんけど。それでも若い世代が和食をやらなくなってしまったら、受け継ぐ人がいなくなってしまったら日本の食文化はどうなってしまうんだろうって、ちょっと心配になってくるんですょ」

休みの日には、地域の飲食店経営者たちとゴルフを楽しむ下館さん。和の職人らしく、仕事にも遊びにも、とことんまっすぐです。

ひとりふたりで、下館さんと対面しながらあれやこれや酒や肴談義に華を咲かせる。そういう飲み方には、やっぱりカウンター席!

地元の家族やビジネスパーソンの打ち上げなどには広々座敷で。大人は飲みながら、子供は御膳もので。そんな愉しみ方もおすすめ。

駅前でありながらとても静かな通り沿いに「喜多川」はあります。同ビルの2階は前回ご登場いただいた「ビリーズカフェ」です。

店舗情報
喜多川
横浜市都筑区中川1-10-2 中川センタービル1F
tel.045-912-1777
営:月~水・金・土ランチ11:30~14:00(L.O)
ディナー17:00~22:30(L.O)
日・祝ランチ11:30~14:00(L.O)
ディナー17:00~21:30(L.O)
休:木曜日
交:横浜市営地下鉄ブルーライン中川駅徒歩1分
<予告>次回のリレーキーワードは?
喜多川地域のゴルフ仲間なな亭

和の職人でありながら、少しゆるめのキャラをもつ気さくな店主という印象の下館さん。「いいお客さまに支えられているから、こんな性格になりました(笑)」と、最後までお客さま第一主義を語っておられました。さて、次のお店は?「横浜市営地下鉄ブルーラインの終点であり、東急田園都市線と交錯する駅、あざみ野駅のおいしい焼肉のお店『なな亭』新井さんをご紹介します。ゴルフでもよくおつきあいさせていただいている店主です」。ありがとうございます。それでは次回、焼肉「なな亭」さんでお会いしましょう。

文:高木 正人
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