さしみ定食をつまみに、昼から日本酒をちびりちびり。

毎週金曜日・土曜日はランチ営業をやっているというので、土曜日のランチにおじゃましました。煮魚にしゃぶりつく人。焼魚の骨までなめ回す人。刺身定食で昼酒を楽しむ人もいて。

魚好き・酒好きのお客さまが集まる店だと、すぐに分かります。

私も刺身定食をいただいたのですが、この日はイシガキダイが盛りつけられていました。もちもちっとした白身で、噛むほどにおいしい。ごはんもおいしくて、どこか漁師町の沿岸の食堂にでもいるかのような錯覚に。

取材じゃなければ、日本酒もいきたいところでしたが……。

店主の中西正勝さんは、もともと公務員だった人なのです。公務員から魚を売る店主へ。不思議な経歴ですね。

「三浦半島の荒崎に祖父の家があって、子供のころからよく遊びに行っていたんですね。そこで食べていたのが新鮮な魚たち。海のそばで食べる魚がおいしくてね。それで一度は公務員になったんですけど、25才から飲食の道へと方向転換したんです。市場のなかにある食堂や逗子の割烹料理店、銀座のすっぽんのお店で仕事をしてきました」

親戚で魚類学者の内田恵太郎（1896年－1982年）にもつながっているそうで、魚大好きDNAの系譜を受け継いでいるのかもしれませんね。

いまでは築地に行って、魚屋さんとコミュニケーションを交わし、その日のおいしい魚を、旬の日本酒とともに提供しています。

築地の人と仲良くなるコツは？

「明るく接すること。それとしょっちゅう顔を出すことですね。あっ、魚が好きなことはもちろんですけどね」

中西さんの目利きに加えて、築地の魚屋さんとの信頼関係で、とっておきの魚を仕入れているのです。

魚で板橋を幸せに！大学のインターンシップ、街へ出て行商も！

中西さんは、店を運営するばかりではなく、さまざまな活動をしています。

親子で参加する魚教室では、お父さんとお母さんで子供に魚をさばく方法を教えることで、魚への理解を通して親子のきずなを深めるお手伝いをしてきました。

家政大学のインターンシップもサポートしています。学生さんがお魚教室を企画、運営、実施するにあたり、いろいろとお手伝いをしているのです。

「魚への興味を持ってもらえたらいいなぁと思っています。店のなかで飲食を楽しんでいただくことも大切な仕事ですが、店の外の活動をこれからも積極的に展開していきたいですね」

そして、平日には板橋駅エリアから十条駅エリアにかけて魚の「行商」を行っているのです。発泡スチロールのケースに入った鮮魚を運び、街に出ます。

洋服卸屋さんやキリスト教会、ベーグルのおいしいお店や郵便局前などで、行商をおこなうと、待ってましたとばかりにお母さんたちが買いにきます。中西さんの目利きは、街のお母さんたちの信頼も得ているのですね。

魚料理といえば、日本酒がつきもの！当然、日本酒にも力を入れています。季節ごとに、常時20種の日本酒を仕入れています。

「私にとって日本酒の師匠は、常連のお客さんです（笑）。この酒蔵のお酒おいしいから呑んでみれば？とか、酒屋さんまで紹介していただいたり。感謝しています」

マニアックな中西さんの回りには、同じようにマニアックな人が集まる。

「子供のころから、自分はフツーの人間だと思っていたんですね。だからマニアックな人に憧れて生きてきたんです」

そう言う中西さん自身がいちばんマニアックだったりして（笑）。