凜とした空気感が漂う、音楽と酒と料理のキッチン＆バー。

テクニクス、マッキントッシュ、マランツ、タンノイ……。オーディオの名機に混じって、ソニーのBCLラジオも発見。入り口には、70年代アメリカンミュージックのレコードジャケットたち。池袋西口の喧噪から地下へと降りただけで、懐かしくホッとする空間と出会えます。

店主の藤崎一郎さんは、飲食業で仕事をした後、アメリカ～カナダを2年ほど旅して27才で独立を果たしました。

物件探しに1年を費やし、コツコツと収集してきたレコードを搬入し、L字カウンターを配して、「オレンジ」をオープンさせたのが12年前。

最近改装されたそうですが、それを差し引いても店内の清潔感にびっくり！テーブルセットはきちんと定位置に並び、カウンターの上も新鮮なフルーツが置かれているだけで整然としている。意味もない写真やチラシがセロテープでベタベタ貼られていることも、調味料のシミがついているなんてこともない。

決して敷居が高いわけではないのに、くだけすぎることもない。

凜とした空気感が漂っています。

「お客さまが入ったときに店全体がどんな雰囲気になるか。それを読みながら空間づくりをしています。お客さまもインテリアの一部みたいな考え方です。清潔にはもちろん気を遣っていますょ。おかげさまで、女性ひとりでもご利用いただいているのが嬉しいですね」

棚にぎっしりと収納されているレコードの中から、ジャクソン・ブラウンのファーストアルバムをリクエストしました。

タンノイのスピーカーから流れる「ジャマイカ・セイ・ユー・ウィル」のサウンドはCDとはまったく違って、あたたかく、奥行きもある。いやぁ、癒やされます。

シングルモルトを飲みながらカウンターでひとり、背筋を伸ばして70年代のサウンドに向き合う。ぜいたくなひとときですよね。

店はねばり強くつづけると、いいこともある。

インタビューの途中、何度も「いいお客さまに支えられている」と口にする藤崎さん。
少し懐かしいサウンド、居心地のよい空間、お酒や料理のおいしさ、そして接客──。すべてにおいて、日々ブラッシュアップを積み上げ、12年という歳月が流れました。

「音楽ばかりに集中することなく、お酒を愉しみにご来店いただいても、料理を食べることが目的でもご満足いただけるような店づくりを心がけています。オープン当初は、お客さまのご来店がゼロの日がつづいたり、マナーのよくないお客さまに帰ってもらったこともありましたけど、今では本当にいいお客さまに支えられて、とても感謝しているんです。ねばり強く店をつづけるって大切なことなのかもしれませんね」

藤崎さんの接客スタイルは「できるだけ声かけをしない」サービス。

「次の一杯いかがですか、と急かさないように心がけています。ゆっくりと過ごしていただきたいし、あくまでもお客さま中心のサービスでありたいんです」

最近は「ORIGAMI（オリガミ）」というバーを第2号店としてオープン。

でも、毎日のように危機感をもちながら店舗経営をされています。

「まず3年やろうと思ってはじめました。それがおかげさまで10年を経過することができた。そこから先は1年ごとにしっかりと乗り切ろうという気持ちです」

若い世代の飲食人にもひとこと──。

「どんどん独立してほしいですね。新しい感性を生かしたオリジナリティのある店がオープンすると、その街はワクワクしたものになるでしょう？私もそういう店から刺激をもらいたいと思います。アドバイスなんてできないけど、ねばり強く店をつづけると、たとえば再開発とか、周囲の環境がいい具合に変化して、面白いことになったする。だからつづけることは大切だと思いますョ」