

2016年11月掲載
食は文化。楽しい思い出が甦る店をつくりたい。
「30才までに独立するのが目標だったんです」。焼鳥専門店「とり洋一郎」のオーナー、古賀洋一郎氏に独立のいきさつを聞くと、そんな言葉が返ってきた。
専門学校在籍時のアルバイトをきっかけに焼鳥の奥深さに魅了され、専門店で修業を始めた。そのときから抱いていたのが「独立する」という夢だった。
「早く父のようになりたくて。父は自衛隊員として働き、定年後に事業を始め、その間ずっと収入を減らしていません。素直にすごいなって思うし、尊敬しています」
技術習得のため、早いうちから多くのことをやらせてもらえる店で修業した。
「下積みを軽視するわけではありませんが、串に触れるまで何年も待つ店だと、独立が遠のいてしまうという焦りがありました」
独立に向けて修業するなか、物件探しを担ってくれる人物と知り合い、条件に合った物件を見つけることができた。着工が始まってからは顧客獲得のために異業種交流会へ通い、多くの人と名刺を交わした。
「交流会には、今も月に2回ほど通ってます。国立の方にはまだあまり知られていない店なので、ほかの地域から来てくださるのはとてもありがたいです」
「とり洋一郎」へ足を運ぶ人々の一番の楽しみは「松風地どり」だ。丹波笹山で育てられ、ホルモン剤や遺伝子組み替えのエサを一切使わず、長い時間をかけ育てられる。
「初めて食べたときはびっくりしました。コクとうまみ、ねっとりとした舌触り、歯ごたえ。今まで食べたことがないと思いました」
松風地どりを食べられるのは、都内では「とり洋一郎」だけ。松風地どりは他の鶏に比べ価格が高い。生産者によれば、その価格で多くのオーナーが仕入れを諦めるという。しかし古賀氏は、この鶏を選んだ。
「本当に美味しい鶏を、最適な焼き方で、お客様にご提供する。それができてこそ、独立する意味があると思いました」
今、古賀氏が注力するのは、地元・国立の人々にこの味を知ってもらうことだ。
「そうすれば、きっと好きになってもらえると確信してます」
夢を現実にするためには、情熱と行動力、そして冷静な判断力が必要だ。独立を果たした古賀氏は、今後もその才能をもって、店を発展させていくのだろう。


profile
古賀 洋一郎 Youichiro Koga1985年生まれ、東京都東村山市出身。高校卒業後、服飾専門学校へ入学。卒業後にテーラー業界へ就職するも退職、焼き鳥専門店にて本格的に修業を始める。2016年4月に焼鳥専門店「とり洋一郎」をオープン。以来、「とり洋一郎」は「都内で唯一、松風地どりを食べられる店」として知名度が急上昇している。