
※各記事に関しましてグルメキャリー本誌掲載当時のものになります。法改正により、現在の内容と異なっている場合もございます。ご了承ください。
「年俸額の一部が賞与とされる場合も、支給日在籍要件は有効か」

Q.
私は、チェーン飲食店のエリアマネージャーとして働いて、賃金は年俸制となっています。年俸は14等分され、14分の1を毎月の月例賃金として支給され、残りの14分の2は、14分の1ずつ6月と12月に賞与として支給されます。このたび、10月末で退職することになり、12月の賞与は支給されません。でも、よく考えると、12月の賞与は年俸の一部なのですから、まったくもらえないのはおかしくないですか。
【37才 男性】

A.
年俸制とは、一言で言えば、「賃金を年単位で決定する制度」であり、一般的には労働者の業績評価を賃金に反映させることを目的としています。法律上の規制があるわけではありませんので、導入するのは各企業の自由です。ただし、賃金の決定方法以外は通常の賃金制度となんら変わらず、労働基準法の賃金規制は適用されます。
労働基準法の賃金支払原則には、毎月1回以上支払わなければならないという「毎月払の原則」が定められています(24条)。したがって、年俸制と言えど、年額を一括で支給することは許されず、たとえば12等分して、毎月の給料日に支給しなければなりません。また、14等分や16等分などして、月例賃金のほかに、賞与として支給するような制度も見受けられます。
さて、就業規則(賃金規程)において、「賞与は支給日に退職していた場合には支給しない」と定められていることがあります。これを賞与の支給日在籍要件といいます。「賞与は、過去の勤務に対する報償という意味とともに、将来の労働に対する期待や意欲向上の意味も含まれる」として、支給日在籍要件を認めた裁判例がいくつかあります。一般的には、賞与の支給日在籍要件は法的に問題がないと言っていいでしょう。
ところで、行政解釈によると「『賞与』とは支給額があらかじめ確定されていないものをいい、年俸制で毎月払い部分と賞与部分を合計してあらかじめ年俸額が確定している場合の賞与部分は『賞与』に該当しない」としています。年俸額を14等分や16等分して一部を賞与として支給するのは、本来の賞与の性格とは異なるということになります。
確かに、「いくら支給額が前年の実績によって確定しているとはいえ、その賞与は今年度の労務提供を前提とした賃金であるから、支給日在籍要件は有効である」との説も成立する余地はあります。しかしそうすると、同じ年俸額、かつ同じ在籍期間(労務提供期間)であったとしても、賞与の年俸額に占める割合によって、退職までに受け取る賃金総額が変わってくることになります。これではむしろ、年俸制の趣旨に反することになるでしょう。
結論としては、ご質問のケースで支給日在籍要件を適用するのはやはりムリがあるでしょう。12月支給予定だった賞与は、在籍期間に応じた割合で計算して支給するべきです。
なお、年俸制という新しい制度を導入するからには、年2回払いの賞与という古い発想を断ち切り、「年俸額は12等分して支払う」制度に変更することが、根本的な解決になるでしょう。
労働基準法の賃金支払原則には、毎月1回以上支払わなければならないという「毎月払の原則」が定められています(24条)。したがって、年俸制と言えど、年額を一括で支給することは許されず、たとえば12等分して、毎月の給料日に支給しなければなりません。また、14等分や16等分などして、月例賃金のほかに、賞与として支給するような制度も見受けられます。
さて、就業規則(賃金規程)において、「賞与は支給日に退職していた場合には支給しない」と定められていることがあります。これを賞与の支給日在籍要件といいます。「賞与は、過去の勤務に対する報償という意味とともに、将来の労働に対する期待や意欲向上の意味も含まれる」として、支給日在籍要件を認めた裁判例がいくつかあります。一般的には、賞与の支給日在籍要件は法的に問題がないと言っていいでしょう。
ところで、行政解釈によると「『賞与』とは支給額があらかじめ確定されていないものをいい、年俸制で毎月払い部分と賞与部分を合計してあらかじめ年俸額が確定している場合の賞与部分は『賞与』に該当しない」としています。年俸額を14等分や16等分して一部を賞与として支給するのは、本来の賞与の性格とは異なるということになります。
確かに、「いくら支給額が前年の実績によって確定しているとはいえ、その賞与は今年度の労務提供を前提とした賃金であるから、支給日在籍要件は有効である」との説も成立する余地はあります。しかしそうすると、同じ年俸額、かつ同じ在籍期間(労務提供期間)であったとしても、賞与の年俸額に占める割合によって、退職までに受け取る賃金総額が変わってくることになります。これではむしろ、年俸制の趣旨に反することになるでしょう。
結論としては、ご質問のケースで支給日在籍要件を適用するのはやはりムリがあるでしょう。12月支給予定だった賞与は、在籍期間に応じた割合で計算して支給するべきです。
なお、年俸制という新しい制度を導入するからには、年2回払いの賞与という古い発想を断ち切り、「年俸額は12等分して支払う」制度に変更することが、根本的な解決になるでしょう。
グルメキャリー247号掲載

飲食店オーナー・経営者のみなさまへ


特定社会保険労務士 久野 航 Wataru Hisano PROFILE
昭和46年生まれ。寿司職人、ファミリーレストランなど外食業界の勤務経験豊富。チェーン系居酒屋店長を経て、社会保険労務士として独立。現場での経験と法的な視点を持ち合わせる異色の社労士として、飲食業の労働環境整備に向けて日々奮闘中。
ひさの社会保険労務士事務所〒114-0023 東京都北区滝野川7-39-3 丸勝マンション201
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