
※各記事に関しましてグルメキャリー本誌掲載当時のものになります。法改正により、現在の内容と異なっている場合もございます。ご了承ください。
「計算間違いで過払いとなった賃金の「調整的相殺」」

Q.
毎月の給与は、手取りでだいたい20万円ぐらいなのですが、先月分は28万円ぐらいになっていました。先月は忙しかったし、残業が多かったからだろうと、たいして気にしていませんでした。ところが、今月の給与明細を見てびっくりしたのですが、12万円ぐらいしかありません。店長に聞いたところ、「先月は計算間違いで多く支払いすぎたので、今月で調整した」とのことです。これでは生活が厳しすぎるのですが、こんなことが法的に許されるのですか。
【24才 女性】

A.
労働基準法には、賃金の支払い方について、「賃金支払いの5原則」と呼ばれる原則が定められています(24条)。この5原則のうちの一つに、「全額払いの原則」があります。これは、「賃金は労働者に全額支払わなければならない」という原則です。当たり前のことのようですが、労働の対価である賃金には、1円たりとも手をつけてはならない、すなわちピンハネは許されないという重要な規定です。
ではご質問のように、計算間違いで過払いになった賃金を、翌月支給分で相殺(これを「調整的相殺」といいます)することは、違法になるのでしょうか。
最高裁判例によると、調整的相殺により、本来支払われる賃金は、結果的にその全額の支払を受けたことになるので、「全額払いの原則」の問題とはならない、としています。そして、「その時期、方法、金額などから見て、労働者の経済的生活をおびやかさないこと」を条件に、違法とはならないと示しました。具体的には、(1)過払いのあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期に、相殺をおこなうこと(何ヶ月もたってからではダメ)、(2)あらかじめ労働者に相殺することを予告すること、(3)その額が多額にならないこと、を基準にあげています。
では、ご質問のケースにあてはめてみましょう。(1)については、過払いのあった月の翌月に相殺しているので、問題ないでしょう。(2)については、給与明細書を見て初めて知ったとのことで、予告をしていなかったようなので、条件を満たしません。(3)については、いきなり約8万円もの額を減額されては、生活に影響が出ることは容易に想像できることです。
以上のとおり、このケースでの調整的相殺は、法的に許されません。お店の側は、本人と相談の上、何ヶ月かに分割して相殺する等の配慮が必要でした。
ではご質問のように、計算間違いで過払いになった賃金を、翌月支給分で相殺(これを「調整的相殺」といいます)することは、違法になるのでしょうか。
最高裁判例によると、調整的相殺により、本来支払われる賃金は、結果的にその全額の支払を受けたことになるので、「全額払いの原則」の問題とはならない、としています。そして、「その時期、方法、金額などから見て、労働者の経済的生活をおびやかさないこと」を条件に、違法とはならないと示しました。具体的には、(1)過払いのあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期に、相殺をおこなうこと(何ヶ月もたってからではダメ)、(2)あらかじめ労働者に相殺することを予告すること、(3)その額が多額にならないこと、を基準にあげています。
では、ご質問のケースにあてはめてみましょう。(1)については、過払いのあった月の翌月に相殺しているので、問題ないでしょう。(2)については、給与明細書を見て初めて知ったとのことで、予告をしていなかったようなので、条件を満たしません。(3)については、いきなり約8万円もの額を減額されては、生活に影響が出ることは容易に想像できることです。
以上のとおり、このケースでの調整的相殺は、法的に許されません。お店の側は、本人と相談の上、何ヶ月かに分割して相殺する等の配慮が必要でした。
グルメキャリー275号掲載

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特定社会保険労務士 久野 航 Wataru Hisano PROFILE
昭和46年生まれ。寿司職人、ファミリーレストランなど外食業界の勤務経験豊富。チェーン系居酒屋店長を経て、社会保険労務士として独立。現場での経験と法的な視点を持ち合わせる異色の社労士として、飲食業の労働環境整備に向けて日々奮闘中。
ひさの社会保険労務士事務所〒114-0023 東京都北区滝野川7-39-3 丸勝マンション201
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