採用時に、「1日10時間労働、日給1万円」という労働条件で労働契約を結んだとのことです。法律の世界における、「契約自由の原則」という原則からすると、この契約もまったく問題ありません。しかし、労働基準法（労基法）という法律の存在により、労働契約について、この原則に一定の制限を課しています。
　具体的には、労働時間の上限について、労基法32条において、「1日8時間、1週40時間」と定められています（法定労働時間）。ご質問のように、「1日10時間労働」という契約をしても、労基法に定める基準を下回る労働条件を定める労働契約は、その部分について無効となります（13条前段）。たとえ、あなたとお店に何の不満もなく、双方が合意して契約したとしても、労基法は強行法規ですから、その合意は無効となります。
　さらに、無効となるだけではなく、無効となった部分は、自動的に、労基法で定める基準に置き換わってしまうのです（同条後段）。
　問題は、この場合、「1日10時間労働」の部分だけ無効となり、「1日8時間労働」に置き換わって、「1日8時間労働、日給1万円」となるのでしょうか。それとも、賃金は労働時間の長さを前提に決定されるものとして、労働時間が短縮されればそれに比例して賃金も減額され、「1日8時間労働、日給8千円」となるのでしょうか。
　同様の事例が争点となったある裁判例では、時間給であることが明確でない限りは、前者の「1日8時間労働、日給1万円」となる、と判断しています。
　したがって、ご質問の前提条件は、当初の契約が「1日8時間労働、日給1万円」に、自動的に置き換わっていることになります。そうすると、労働時間単価は1時間あたり1万円÷8時間＝「1,250円/時間」となります。
もし、当初の約束どおり1日10時間働いたとすると、8時間を超えた2時間については、法定時間外労働なので、1.25倍の割増賃金となり、1,250円/時間×1.25×2時間＝3,125円を1万円に加算して、「13,125円」となります。
　そして、ご質問どおり12時間労働をした場合、同様の計算でさらに「3,125円」を加算した、「16,250円」を、お店の側は支払わなければなりません。

　日給制ではなく月給制の場合、「1日10時間労働、1週6日勤務、月給25万円」といった契約をしているお店は多いのではないでしょうか。この場合、1週48時間労働となり、40時間を超える部分が無効となります。つまり、「1週40時間労働、月給25万円」という契約内容に自動的に置き換わっていることになります。実際に1週48時間労働をさせていたなら、いつ未払残業代請求をされても不思議ではありません。今一度、契約内容を見直しましょう。