確かに、育児休業は職場復帰を前提とした制度ですが、誓約書を書かせるのは、やりすぎです。
　育児休業制度の趣旨は、子育てをする労働者が、仕事をやめることなく、安心して一定期間育児に専念する休業を取得することができ、休業後はまたもとの職場に戻ってこられることにあります。その意味において、お店の説明は正しいと言えます。
　育児休業期間中、使用者（お店の側）に賃金の支払義務はないので、一般的には無給となります。その間の所得保障として、雇用保険に加入している場合には、育児休業給付金という給付を受けることができます。
　この育児休業給付金の支給条件の一つとして、「育児休業終了後に退職を予定していないこと」が、明確に定められています。そもそも、退職を予定していない人には所得保障をする必要はありません。例えば、子が1才になるまで給付金をもらって、そこで退職してしまえば、言葉は悪いですが、給付金の「もらい逃げ」ができることになってしまいます。これでは、職場復帰するつもりがない人まで、「もらってから退職した方がトクじゃん！」ということになってしまいます。
　ちなみに、かつての育児休業給付金は、休業期間中と職場復帰後に分けて支給されていましたが、現在は全額が休業期間中に支給されます。そのため、なおさら「もらってから退職した方がトク」と考える人もいることでしょう。
　お店側の立場に戻りますと、育児休業取得者が出た場合には、その人が戻ってきたときのための『席』を空けて待っていなければなりません。それなのに、いざ休業期間が終了したところで、「やっぱり退職します」となると、そこから人員補充に動かなければなりません。
　以上のことから、「育児休業後、職場復帰する意思があること」を育児休業取得の要件とすることは認められるというのが、厚生労働省の見解です。しかし、その意思の確認として誓約書を取るとなると、労働者に過度の負担を負わせることになり、望ましくないとしています。
　また、仮に誓約書を提出したり、口頭ででも復職の意思を伝えていたりした場合でも、労働者には退職の自由がありますので、退職が絶対にできなくなるわけではありません。その点は安心してください。実際、休業前は復職の意思があったとしても、休業終了時に保育所の空きが無いなど、子育てをめぐる環境しだいでは、退職せざるを得ないこともあるでしょう。

　お店側としては、職場復帰を待っていたのに、育児休業終了と同時に、そのまま退職されては、正直、おもしろくはないでしょう。ただ、だからといって、子育て環境の実態を無視して、誓約書を取ってまで退職を阻止するという発想は、ワークライフバランスの趣旨にもとるというものです。