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フードサービス業界の労務相談

※各記事に関しましてグルメキャリー本誌掲載当時のものになります。法改正により、現在の内容と異なっている場合もございます。ご了承ください。

「就業規則変更により、個別契約していた有利な労働条件も変更か」

質問1

Q.

  今のお店に就職するとき、就業規則では通勤手当の上限額が、月額1万5000円となっていました。私の自宅からお店までの定期券代は2万円になるので面接時に交渉したところ、特例的に実費全額の2万円を支給してもらえるとの約束で入社しました。ところが、このたび就業規則の改定があり、上限額が月額1万円となりました。これに伴い、私の通勤手当も上限の1万円に引下げられました。私はこれに従わなければならないのですか。
【26才 女性】
答え

A.

  ポイントは、その「2万円を支給する」という契約について、「就業規則の変更があっても変更しない」という合意が成立していたかどうかです。しかし、入社時、このように明確な約束をしていなかった場合には、結局は解釈の問題ということになってしまいます。
 まず、そもそも入社時の「2万円を支給する」という契約が有効かどうかについてです。労働契約法では、労働契約を締結する場合(入社時)に、合理的な労働条件が定められた就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものになると定めています(7条前段)。では、就業規則の内容と異なる労働条件で労働契約を締結した場合にはどうでしょうか。就業規則で定める労働条件を下回る労働契約は無効となります(12条)。逆に、就業規則より有利な労働条件で合意が成立していた場合には、その合意が優先されます(7条ただし書き)。したがって、通勤手当の上限が月額1万5000円と就業規則に定められていても、個別に「2万円支給する」という合意が成立していた場合には、こちらが優先されることになります。
 次に、就業規則の変更についてです。就業規則も契約なのですから、労働者と合意も無く、使用者(お店)の側が一方的に変更できないのが原則です(9条)。しかし、合意が無ければ絶対に変更できないとすると、どれだけ経営状況や社会環境が変化しても変更することができないことになり、それはそれで問題があります。そこで、就業規則の変更に合理性があり、変更後の就業規則を労働者に周知させることを条件に、例外的に、労働者の合意が無くても就業規則を変更することができます(10条前段)。この就業規則変更の合理性は、個々の事情に応じて厳格に判断されますが、ひとまずご質問のケースでは、就業規則の変更自体は有効であったという仮定で進めます。
 ここで問題になるのが、入社時に、個別合意が成立していた、就業規則より有利な労働条件は、就業規則が変更された場合に、その労働条件はどうなるかという点です。法律条文では、労働者と使用者が『就業規則の変更によっては変更されない労働条件』として合意していた部分については、その合意が優先されると定めています(10条ただし書き。もちろん、12条の適用も生きているので、合意内容は、変更後の就業規則より有利であることも条件となります)。つまり、入社時の約束が(1)「たとえ就業規則が変更になっても、あらためて個別合意がなければ、この労働条件は変更しませんよ」だったのか、(2)「就業規則が変更になれば、この労働条件も変更になりますよ」だったのかにかかってきます。ここまで明確な約束をしていなかったとしたら、判断は難しくなります。
 ただ、「就業規則の変更によっては変更されない」ことをあらかじめ明文化したり明示したりすることまでが必要なわけではなく、(1)である合意が成立していると解釈・評価できれば十分である、という説があります。また、労働契約における合意原則を重視するなら、10条ただし書き(=就業規則の変更では変更されない)を広く認めるべきだとの説もあります。そのように考えると、あなたの通勤手当は1万円に自動的に引き下げられることは許されず、当初の合意が優先されて、2万円のままとすべきと判断される可能性が高くなります。
 なお、お店の側は、こういったトラブルを回避するために、入社時に就業規則と異なる労働条件で採用する場合には、先述の(1)(2)いずれの契約とするのか明示するべきです。
グルメキャリー248号掲載

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飲食業に強い社労士です!
久野先生

特定社会保険労務士 久野 航 Wataru Hisano PROFILE

昭和46年生まれ。寿司職人、ファミリーレストランなど外食業界の勤務経験豊富。チェーン系居酒屋店長を経て、社会保険労務士として独立。現場での経験と法的な視点を持ち合わせる異色の社労士として、飲食業の労働環境整備に向けて日々奮闘中。

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