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フードサービス業界の労務相談

※各記事に関しましてグルメキャリー本誌掲載当時のものになります。法改正により、現在の内容と異なっている場合もございます。ご了承ください。

「誰も見たことのない就業規則に、最低基準としての効力はあるか」

質問1

Q.

  お店の棚を整理していたところ、奥の方から古い就業規則を見つけました。表紙には、10年以上前の日付で、労働基準監督署の受理印が押してあります。中身を見ると、今の私の労働条件よりずっと有利な規定がいくつもあります。たとえば、現在賞与はまったく支給されていないのに、その就業規則では年に2回、月給3ヶ月分が支給されることになっています。オーナーは、「昔、助成金をもらうために、形だけ作って労働基準監督署に届け出た。こんな化石みたいな就業規則が有効なわけがない!」と言っています。私は、この就業規則にもとづいて、賞与をもらうことはできませんか。 
【32才 男性】
答え

A.

  ご質問の内容は、労働法の世界でも学説が対立しているテーマであり、お答えが難しい問題です。
 まずは、就業規則が持つ、二つの法的効力からお話します。
 一つ目は、「労働契約の内容となる効力」であり、「労働契約規律効」と呼ばれるものです。雇う雇われるという関係は、使用者(お店の側)と労働者が労働契約という契約を結ぶことです。しかし、労働契約の内容すべてを事細かに、労働者を雇入れるたびにその都度決めるのは大変です。そこで、その事業所における統一的・画一的な労働条件を定めて明文化したものが、就業規則となります。そして、合理的な労働条件が定められている就業規則を、労働者に周知させていた場合は、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとなります(労働契約法7条)。ここでいう「周知」とは、個々の労働者が実際に中身を見ていなくても、見ようと思えばいつでも見られる状態にあることです。逆に言えば、棚の奥にしまってあって、誰も見たことのないような就業規則には、労働契約規律効はありません。たとえば、お店の側が就業規則にもとづいて懲戒処分をする場合、誰でもいつでも見られる就業規則がなければ、その懲戒処分は無効になるということです。
 もう一つは、「最低基準を定める効力」であり、「最低基準効」と呼ばれます。就業規則で定める基準に達しない労働契約は、その部分について無効となり、この場合、無効となった部分は就業規則の定めによる基準どおりの契約となるというものです(労働契約法12条)。
 たとえば、就業規則には賞与について、「月給3ヶ月分」となっているのに、雇入れの際に「賞与無し」という条件で契約しても、その契約は無効になる上、自動的に「月給3ヶ月分」で契約したことになります。
 では、最低基準効についても、労働契約規律効と同様に、「周知」していなければ効力は無いのでしょうか。実はこの点で、周知が必要であるという説と、不要であるという説が対立しています。裁判例も確立していません。
 ところで、ご質問のケースは、オーナーが国から助成金をもらうために就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出たとのことです。そうすると、届出をしたことで、この就業規則は、客観的にこの世に存在したことになります。さらには、オーナーは助成金という利益を得ています。その一方で労働者に見つかったとたんに、「周知をしていないから、効力がない」という主張は、あまりにもムシが良すぎると考えることができます。この考えに立つと、「最低基準効については、たとえ周知をしていなくても、労働基準監督署に届出をしていれば発生する」との説に一理ありそうです。この説が認められれば、あなたはこの就業規則にもとづいて、賞与を請求することができます。
 このように、就業規則は、ときとして大きな力を持つものです。お店の側は、「形式的にだけ作成して届け出た」などと、軽く考えるべきではありません。
グルメキャリー252号掲載

飲食店オーナー・経営者のみなさまへ
飲食業に強い社労士です!
久野先生

特定社会保険労務士 久野 航 Wataru Hisano PROFILE

昭和46年生まれ。寿司職人、ファミリーレストランなど外食業界の勤務経験豊富。チェーン系居酒屋店長を経て、社会保険労務士として独立。現場での経験と法的な視点を持ち合わせる異色の社労士として、飲食業の労働環境整備に向けて日々奮闘中。

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