
※各記事に関しましてグルメキャリー本誌掲載当時のものになります。法改正により、現在の内容と異なっている場合もございます。ご了承ください。
「退職日を合意の上で延期した後、お店の都合で早められた場合、解雇にあたるか」

Q.
居酒屋に勤務しています。転職をするつもりで、9月末日付で退職したいとの内容で、退職願を提出しました。すると、店長からは「これから忘年会シーズンで忙しくなるので、12月いっぱいまで残ってくれないか」と言われたため、それに応じることにしました。ところが、10月20日になって突然、「後任を採用したので、10月末日で辞めていいよ」と言われました。私は困惑しながらも、しぶしぶ退職することになりました。これは解雇にあたるのでしょうか。
【25才 男性】

A.
結論としては、事実上の解雇と認定される可能性は、十分考えられます。
類似の裁判例がありますのでご紹介します。飲食店勤務の調理長にかかる雇用契約の終了が、会社による解雇にあたるか否かについて争われた事案です。同調理長が4月に退職の意向を伝えたところ、会社代表者との話合いのなかで、「8月半ばのお盆をめどに後任者を探すので、それまで待ってほしい」と伝えたところ、調理長はそれに応じました。ところが、その後7月半ばになって、会社代表者から7月末日で辞めるように伝え、そのまま同日で退職することになった、というものです。裁判所は、「話合いにより、8月ころまでに後任者を探して引継ぎをすることになっていたのに、それに反し7月末日で退職するように求めた行為は、同日をもって解雇する旨の意思表示をしたものというべきである」と判断しました。さらに、「調理長が7月末日までの勤務を求められて、同日で退職したのは、合意が成立したのではなく、解雇の有効性を争わなかったにとどまる」とし、解雇予告手当の支払を命じました。
ご質問のケースに当てはめてみます。あなたが9月末日で希望した退職日を、話合いの結果、12月末日に延期することで合意した時点では、合意退職が成立していたと言えます。しかしそれに反し、お店の側が10月末日で辞めるように求めたことは、解雇の意思表示があったとされるわけです。さらに、あなたがしぶしぶ退職したのは、退職日の変更に合意したわけではなく、解雇の有効性について争わなかったと認定される可能性もあります。
使用者(お店の側)は、解雇しようとする際、30日以上前に予告するか、平均賃金30日分以上の解雇予告手当を支払わなければなりません。解雇予告が30日前に不足する場合には、その日数分の解雇予告手当が必要です。
ご質問のケースは、10月末日付解雇を10月20日に予告したことになるので、不足する11日分の平均賃金を解雇予告手当として支払わなければなりません。
類似の裁判例がありますのでご紹介します。飲食店勤務の調理長にかかる雇用契約の終了が、会社による解雇にあたるか否かについて争われた事案です。同調理長が4月に退職の意向を伝えたところ、会社代表者との話合いのなかで、「8月半ばのお盆をめどに後任者を探すので、それまで待ってほしい」と伝えたところ、調理長はそれに応じました。ところが、その後7月半ばになって、会社代表者から7月末日で辞めるように伝え、そのまま同日で退職することになった、というものです。裁判所は、「話合いにより、8月ころまでに後任者を探して引継ぎをすることになっていたのに、それに反し7月末日で退職するように求めた行為は、同日をもって解雇する旨の意思表示をしたものというべきである」と判断しました。さらに、「調理長が7月末日までの勤務を求められて、同日で退職したのは、合意が成立したのではなく、解雇の有効性を争わなかったにとどまる」とし、解雇予告手当の支払を命じました。
ご質問のケースに当てはめてみます。あなたが9月末日で希望した退職日を、話合いの結果、12月末日に延期することで合意した時点では、合意退職が成立していたと言えます。しかしそれに反し、お店の側が10月末日で辞めるように求めたことは、解雇の意思表示があったとされるわけです。さらに、あなたがしぶしぶ退職したのは、退職日の変更に合意したわけではなく、解雇の有効性について争わなかったと認定される可能性もあります。
使用者(お店の側)は、解雇しようとする際、30日以上前に予告するか、平均賃金30日分以上の解雇予告手当を支払わなければなりません。解雇予告が30日前に不足する場合には、その日数分の解雇予告手当が必要です。
ご質問のケースは、10月末日付解雇を10月20日に予告したことになるので、不足する11日分の平均賃金を解雇予告手当として支払わなければなりません。


飲食店オーナーの方へ
従業員から退職願が提出された場合に、引継ぎの関係で、話合いの上、退職日を延期してもらうことはよくあるでしょう。しかし、そこで合意によって延期した退職日を、後からお店の都合で早めて辞めてもらうのは、解雇にあたる可能性があるということです。また、早く辞めることに本人が異議を申し出なくても、合意したと認められない可能性もあるわけです。十分注意してください。
グルメキャリー341号掲載

飲食店オーナー・経営者のみなさまへ


特定社会保険労務士 久野 航 Wataru Hisano PROFILE
昭和46年生まれ。寿司職人、ファミリーレストランなど外食業界の勤務経験豊富。チェーン系居酒屋店長を経て、社会保険労務士として独立。現場での経験と法的な視点を持ち合わせる異色の社労士として、飲食業の労働環境整備に向けて日々奮闘中。
ひさの社会保険労務士事務所〒114-0023 東京都北区滝野川7-39-3 丸勝マンション201
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