サラリーマンからの転身。濃厚な修行時代を経て、開花する。

「私なんか取材対象にならないでしょう。だって、運だけでやってこれた人間ですから（笑）」

中山幸三さんは、会社員としてグラフィックデザインの仕事を6年間やってきました。料理の仕事に就いたのが27才ですから、一般的には遅いスタートといえます。

「いきなり出会ったのが笠原将弘さん。一番弟子として『とり将』で働きはじめたんです。で、笠原さんが新しく自分の店をはじめるからいっしょにやろうと誘ってくれて。それが恵比寿の『賛否両論』でした。飲食のすべてを彼から教わりました。人生の師匠みたいな存在です」

濃厚な7年間をすごした中山さん。「とり将」時代のアラカルトから、「賛否両論」での5000円のコース1本という設定まで、提供スタイルについても多くを学びました。

「あと1年で独立させてくださいとお願いして。少しずつ準備もはじめました。物件さがしは10軒以上見たけれど、ピンとくるものがなかったんです。そうしたらたまたま母校の広尾高校のそばを歩いていたとき、新築のガレージがあってテナントを募集中だった。で、店舗デザインは高校時代の先輩にお願いして私のイメージを伝え、施工会社は地元もしくは中学校時代の同級生の会社、店名は『賛否両論』のお客さんのアイディア。私の名前、幸三の二文字をつかって『幸せ三昧』、いい名前でしょう（笑）。修行時代から施工、店名まですべて人との出会いから生まれたもの。ほらね、すべて運だけの人間なんです（笑）」

いえいえ、運や出会いを引き込むのも実力のうちではありませんか。

気軽に楽しく、和食コースを。コンセプトは「おとなの居酒屋」

2009年にオープンした「幸せ三昧」。提供スタイルは、おまかせコースのみ（4800円）という設定です。お酒は日本酒からワインまで、さまざまな種類を取り揃えてあります。

コンセプトは「おとなの居酒屋」──。

おまかせ1本で勝負している、と聞くとお客さんは緊張しながら食事をいただくイメージを思い浮かべがちですが、そうではありません。

むしろ、騒がしく、わいわいと賑やかなのですね。

タバコはもちろんNGですが、子供連れもOK！なのでご近所のファミリーにも人気です。

「だってかつてはみんな子供だったじゃない？（笑）。それをＮＧだなんてね。カウンターの目の前で料理をつくることもあって、お客さんといっしょに楽しみながら営業しているんですょ」

スタッフたちと共にお昼前から仕込みに入り、コース内容は3週間ごとに見直します。なごやかな雰囲気のなか、研ぎ澄まされた和食コースを堪能できるとあって、連日おおにぎわい。

「店の空気感ってあると思うんですね。人が自然に集まってくる、不思議なオーラみたいなもの。そういうことを感じるようになったのは笠原さんの店にいたころです。なんでこの店に、こんなに人が集まるんだろうと、思っていました。美味しいから？楽しいから？サービスがいいから？それもあるでしょうけど、それだけじゃないと思うんです。私にはまだそれが何かわかりませんけど、毎日真剣に仕事をするだけですね！」