カウンターで、ソファで。自分にかえるひとときを演出してくれる。

全面ガラス張りの店内。コンクリートむき出しの高い天井は開放感抜群。少しポップでどこか懐かしいアメリカの雑貨が店内のあちこちに飾られています。

カウンター席に止まり木のように座り、生ビールを飲みながらオーナーの勝野雅道さんとおしゃべりするのも愉しいものですが、イームスの椅子、カリモクのソファが並ぶテーブル席で、気の合う仲間と何時間でも滞在したくなる空間でもあります。

こんな空間がとても閑静な住宅街、中川駅前に隠れ家のように存在しています。前回までのセンター南駅とは違い、中川駅周辺は、同じ沿線でも賑やかな商店街や飲食店が集まる小路などはありません。

だからこそ仕事帰りにくつろげる場所で一息入れたいという人々の想いを、この空間がしっかりと受け止めているような気がします。

「ビリーズカフェ」は、今年で10周年。もともとはアメリカの古着屋をメインにしたショップを経営していた勝野雅道さんが、本格的に飲食業に入ったのは26才のとき。

「30才で独立しようと決意していたんですね。ということは、あと4年しかないわけです。バーで働いたこともあったのでドリンクについては少なからずスキルがあったとしても、食事メニューを充実させたい気持ちがあっても自分には経験がない。そこで、イタリアンレストランのオーナーシェフに直接お願いして、営業時間後にキッチンでパスタ料理を勉強させていただくことになって。1年間、しっかりとパスタ料理について学ぶことができたんです。当時お世話になったバーやイタリアンレストランのオーナーには、とても感謝しています」

メニューは英字新聞のようにデザイン。そこに世界のビールやハンバーガー、ピザ、そしてしっかりと修行したパスタ料理もずらりと並んでいます。

カフェをオープンするにあたり、お気に入りの椅子やソファ、家具などでこだわりの空間をつくり、自分の価値を表現することで満足してしまう経営者も少なくないなか、勝野さんはお客さまが何を求めているのか、を経営者としてしっかりとキャッチしようと努めてきました。

スタートしてから修正していくことの方が多い。それが店をつづけること。

オープン当初は夜の7時にオープンさせていた営業時間を、今では夕方5時半からに変更し、ハッピーアワーをつくってサービスメニューを充実させています。

自らチラシ配りも行い、集客対策を行ったこともあります。

旬の食材を取り入れた本日のメニューも用意し、お酒だけではなく、しっかりと料理も愉しめる空間を心がけてきました。

ビールのコクとキレ、シャンパンの繊細さを味わえるハードシードル（リンゴの発泡酒）を地域に先駆けていち早く導入もしました。

こうしたことからも分かるように、日頃からお客さまの求めていること、店を進化させることを考え実行していることが、10年にわたって地元に密着しつづけてきた原動力といえそうです。

カフェをやりたいと思っている若い人たちに何かアドバイスを、とお願いしたら、こんな答えがかえってきました。

「アドバイスなんて、偉そうなこと言えませんけどね（笑）。店をスタートさせる前に学んだことはもちろん役に立っています。でも、スタートした後から気づいたり、お客さまから教わったり、修正することの方が断然多いものなんですね。そう考えると、店をやりたいと思ったらスタートしてしまった方がいいと思うんです。スタートを切ってから日々変化することの方が大事だと思うからです」

経営者として、今後取り組みたいことは個人店を活性化する支援サービス。

「まだ事業プランを立てている途中なんですが、個人店を外の目線から見つめ、この10年積み上げてきたノウハウを活かし、その店を活性化するイベント提案をしていきたいと思っています」

「ビリーズカフェ」の経営者でありながら、ときには自分の店を飛び出して、新たな貢献の場を広げていく──。勝野さんの次の10年が新たにスタートしようとしてます。