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第68回 寿司一(はじめ)

第68回寿司一(はじめ)

2014.12.18
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緊張しないで、楽しく雰囲気よく。ここでしか食べられない寿司を。

緊張しないで、楽しく雰囲気よく。ここでしか食べられない寿司を。

「ども。こんにちは」

ぴょこんとお辞儀する姿からは、寿司屋の店主にありがちな貫禄とか職人気質な固さとか、そういうオーラを一切感じさせません。

着物を着て、キリっとたすきがけが似合う。でも、つけ台に立っても、平常心でお客さまと接し、どちらかというとゆるいキャラのまま。今まで見たことのないタイプの寿司屋の店主であります。

「緊張して扉を開けたのに、ぜんぜん緊張しないで肩すかし食らったよ、とよく言われます(笑)。私自身、お客さまが緊張しながら寿司を食べる姿なんて見たくないですよ。ですから、いつもこんな感じです(笑)」

銀座でも、西麻布でもなく、西巣鴨駅という立地で店を構えて13年。

今では、遠方からわざわざ電車を乗り継いで来店するお客さまも多く、寿司ファンの間ではネット上で隠れた名店との声もあがっているほど。

独立して、店を出したのが28才!若っ!

「二十代で資金がなかったので、まったく土地勘のない西巣鴨の物件になってしまったのが本当の事情なんです(笑)。ただ、インターネットの時代になって、街そのもののブランド力やエリアの感覚って希薄になってきていると思うんですよね。銀座や西麻布じゃなくても、どこに店を出しても、おいしいものを求めている人たちはネットで探して、ちゃんと足を運んでくださる時代になった。大変ありがたいことです」

アナログな飲食人が多いなか、パソコン作業も大好き。おしゃれでスマートなお店のホームページも佐野さんの自作です。

お店のコンセプトは、おいしい魚、寿司をなるべくリーズナブルに提供すること。そして、なじみのあるネタでもなぜかここでしか食べられないと思っていただけるような工夫を施すこと。

白魚を唐揚げにしたり、ブリを漬けにして握ったり。ちいさなサプライズが散りばめられ、寿司通を唸らせる。それが「寿司一(はじめ)」、隠れた人気のひとつでもあります。

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新しい世代感覚。目利きのスキルと食いしん坊の視点で。

新しい世代感覚。目利きのスキルと食いしん坊の視点で。

佐野公俊さんの実家は、家業として魚河岸を営んでいました。幼いころから、築地市場が遊び場であり、さまざまな魚を見たり、試食できる巨大な台所であり、大人たちの仕事ぶりを観察できる学校でもあったのです。

「まだターレットトラックもなくて、魚がいっぱい入った箱を手押し車で運ぶのを手伝うのが大好きでね。また、子供だっていうのにまぐろは赤身がうまいねとか、赤貝の食感がいいとか、クサヤもうまいね、なんて言っていたらしい(笑)。帰ると、玄関を開ける前に匂いだけで夕食のおかずを当ててしまったり。とにかく食いしん坊でした」

幼少期から自然と鍛え上げられてきた魚の「目利き」の感覚。

そして自分が食いしん坊だから、人にもおいしいものを食べてもらいたいと思う気持ち。

このふたつを抱いたまま大人へと成長してきたのでしょう。

気がつけば、魚河岸の三代目は飲食の道へと歩み出しました。イタリアン、フレンチ、寿司……。なんでも経験しました。スタッフたちにもおいしいものを食べてもらいたいと思う気持ちから、まかないづくりも大好きだったそうです。

「神楽坂の寿司屋では、まかないでフレンチとかつくってました(笑)。ジャンルにこだわっていなかったので、僕独立しますと言ったら親方が『おまえ、本当に寿司屋でいいのか?洋食系のレストランじゃなくていいのか?』って心配されましたから」

握りのスキルはトレーニングした数よりも、体のコンディションづくりの方が大切ではないかと語る佐野さん。基本的に酒は飲まず、バレーボール、ボクシング、バドミントンによる体力づくりを欠かしません。

しっかりとした若手スタッフも活躍中。ただ、佐野さんは自分を親方としては捉えていないようで(汗)。人をマネジメントすることよりも、みんなで肩を並べてがんばろう、というタイプ。ディズニーランドにみんなで行ったこともあるそうです。

四十代前半の店主。佐野さんをはじめ、この世代から寿司業態が大きく変わっていくような予感がしたのでした。

カウンターにはおいしそうな卵焼きが。コースの〆のデザート替わりにいただきたいものですね。それまで、ぷるぷるの表面を鑑賞しながら、しばし寿司を頬張るのです。

本マグロ、ヒラスズキ、金目鯛……。本日つかわれるネタが並びます。この魚たちが佐野さんの手にかかるとどんなひと品になるのか。これぞライブ感ですよね。

限定7席の檜のカウンターは落ち着いて寿司を楽しめる大人の空間。お座敷のテーブルも2卓あり、ちいさな宴会や接待などで使われることもあるそうです。

店舗情報
寿司一(はじめ)
東京都北区滝野川7-47-5 プレミール滝野川1F
tel.03-3576-3373
営:17:00~23:00
休:月曜日
交:都営三田線西巣鴨駅徒歩5分
<予告>次回のリレーキーワードは?
「寿司一 (はじめ)」酒と魚つながり「さかなやST」

いやー、やわらかい感性をもった店主でした。こんな親方が増えれば寿司業態ももっと楽しくなっていきそう。さて、次のお店はやはり魚好きの店主のようです。「蔵元さんと交流を重ね、日本酒と魚について深く探求されている中西正勝さんの『さかなやST』をおすすめします」。ありがとうございます。それでは次回も、魚について楽しいお話しをうかがってまいります。

文:高木 正人
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