[an error occurred while processing this directive]
第73回 稲水器 あまてらす

第73回稲水器 あまてらす

2015.3.5
画像1
飲食業だから許されることがあるって、ヘンだと思う。

飲食業だから許されることがあるって、ヘンだと思う。

店内には、蔵元の大きなコモが飾られ、メニューには80もの蔵元を見学しながら生産者たちとコミュニケーションをつづけてきた店主、古賀哲郎さんが厳選した季節の銘酒がずらり揃っています。

私の好きな佐賀の銘酒「東一」もラインナップ! この日本酒の特徴について改めて尋ねると、古賀さんは「東一」について、延々と説明してくれました。

その説明が重厚すぎないくらいに重厚で、生産者の想いはもちろん、生産地の現状、酒づくりの背景にあるストーリーなど、引き込まれるような語り口。う~む、知らないことばかりでした。

「日本酒ばかりではなく、お客さまからこの刺身は何?って聞かれたとき、その場で答えられるようにホールやキッチンといった持ち場に関係なくスタッフ全員が商品知識をもつようにしています。その刺身は……えーと、ちょっと聞いてきますなんて言ってたら、お客さまはもう次の話題に行っちゃいますよね(笑)」

さまざまな他の業界と比較して飲食業を見つめる──。そうした広い視点をもちながら仕事をしているのが古賀さんのスタンスでもあります。

「たとえば、この薬は何ですかって聞いたとき、名称や効能、服用方法などについて正確に答えられないと医者はつとまらないですよね。あるいは、保険会社の人に免責事項について尋ねたとき、誤解のないようにしっかりと説明できないと誰もその保険になんか加入しないでしょう? でも、飲食の世界では、酒や刺身のことが分からなくてもなぜか許されているんです。それって、へんだと思うんですよね」

自分たちの立ち位置を、つねに他の業種と比較しながら見つめ直しているのです。

銘酒居酒屋としてスタッフ全員がきちんと仕事に取り組む。そして銘酒を楽しむために来店されたお客さまとしっかりと向き合うというかたくなな姿勢が、メニュー、空間、接客のすみずみから感じられる──。それが「稲水器 あまてらす」なのです。

画像2
10年つづいている店の裏側を見ることは貴重な経験。

10年つづいている店の裏側を見ることは貴重な経験。

古賀さんは大学を中退後、ひとつの店だけで約8年じっくりと経験を積み、学びました。独立したのは2011年。つまり、半年、1年であちこちの店へと環境を変えながら、独立をめざしてきたわけではありません。

修行の途中、先輩から「もっといろいろな店を見ておいた方がいいよ」とアドバイスされたこともあったそうです。

でも、独立して4年をむかえる今、たった一店舗でじっくりと経験を積んだことが財産になっていると、実感しています。

銘酒居酒屋の名店に入り、毎日何でもやらされ、バタバタとあわただしい日々だったと振り返る修業時代。日本酒も料理も少しずつ面白くなってきたそうです。

「あちこちの店でやってきたら、きっと言い訳がましい人間になっていたと思うんですよね(笑)。この時代、個人で独立することがますますリスクが高くなってきています。同じマーケットを、大資本の企業型飲食店と個人店が奪い合っているわけですからね。正直言って、個人で独立しようなんて、あまりオススメできない時代ではないでしょうか」

それでも独立したいなら、と古賀さんは語ってくれました。

「私は8年くらいでしたけど、できれば10年同じ店で修行したらいいと思うんです。10年同じ店で仕事をするということは、10年つづいている店を内側から見ることになるわけですよね。それってとても貴重な経験です。だって、ほとんどの店がわずか数年でスクラップアンドビルドを繰り返しているのですから。表面じゃない、店の裏側を辛抱強く、本気で仕事をしながらかかわりつづけたら、それは絶対財産になると思いますょ」

飲食業を真剣にみつめ、毎日地味ともいえる仕込みを丁寧に繰り返し、お客さまに真剣に向き合う店主のもとに、今宵も日本酒党が集まってきます。

鯛、ホウボウ、ヒラメ……。本日の刺身につかわれる魚たちを拝見。銘酒にあわせるだけあって、型も鮮度も抜群のものばかり。酒がすすむ!

鮮魚をメインに、鮭のハラス焼きやエイヒレ炙りなど、日本酒党にはたまらない焼き物もラインナップ。〆に、「特製りょうし丼」もあります。

東洋美人、亀泉、白鴻など、銘酒のコモが展示されていました。ちょっとした日本酒の博物館のような空間に、酔いも深まっていきそうですね。

店舗情報
稲水器 あまてらす (いなみずき あまてらす)
東京都豊島区東池袋2-62-10池袋5Thビル1F
tel.03-6912-9191
営:18:00~24:00
金18:00~翌3:00
休:不定休
交:各線池袋駅徒歩7分
<予告>次回のリレーキーワードは?
「稲水器 あまてらす」日本酒つながり「希紡庵 (きぼうあん)」

古賀さんのお話しをうかがい、飲食は誰でもできる仕事ではないという考え方が伝わってきましたね。また、お客さまやスタッフといった垣根をこえて、日本酒党を増やしていきたいそうです。さて、次のお店をご紹介いただきました。「池袋の西口の日本酒専門店、『希紡庵』さんをぜひご紹介させてください。毎日のように季節の銘酒が飲める名店です」。ありがとうございます。それでは次回も日本酒をテーマにじっくりとお話しをうかがってまいります。

文:高木 正人
[an error occurred while processing this directive]
[an error occurred while processing this directive] [an error occurred while processing this directive]